ライブ協賛は、熱量の高いファンが集まる場で自社ブランドをアピールできる絶好の機会ですが、単独での出展では「小規模な装飾しかできない」「企画の問題で場外まで認知されない」といった課題が生じることがあります。
上記の課題をクリアして協賛効果を最大化する手段は、関係する異業種と手を取り合い、共に協賛する「共創マーケティング」です。ここでは、共創マーケティングの具体的な手法から成功事例、パートナーシップ構築の秘訣まで紹介します。
協賛効果を倍増させる「共創マーケティング」という新潮流

ライブ協賛は、熱量の高いファンに直接アプローチできる強力なマーケティング手法であり、複数の企業が手を取り合う「共創」の発想で高い効果が生まれることがあります。
ここでは、共創マーケティングがなぜ必要なのか、その可能性と具体的な効果について探ってみましょう。
商材によっては単独でのマーケティングが難しい場合がある
多くの企業がライブ協賛の効果に期待を寄せる一方、単独での実施には限界が存在します。
よくあるのは、販売したいものについて「具体的にどのような顧客体験を提供できるのか」を伝えられないケースです。結果として、会場内では一定の認知度を獲得できても、すぐに印象が薄れ、会場外での情報拡散が起きないケースが見られます。
上記のような課題が生じる原因のひとつに、商材自体の性質が挙げられます。ほかの商品・サービスとの組み合わせによって顧客体験が最大化される場合、セットで購買されるものと同時に認知してもらうことで、結果として協賛マーケティングの成果につながるケースが多々見られます。
マーケティングのプロが「共創」に注目する理由
単独施策の限界が明らかになる中で、なぜ今、多くのマーケティング専門家が「共創」というキーワードに注目しているのでしょうか。その背景には、個々の事業や商品・サービスの性質以外にも、現代の市場環境と消費者心理の変化が隠れています。
第一に挙げられるのは、広告費の高騰です。CPA(顧客獲得単価)が上がり続けるなか、限られた予算の中で成果を最大化するにあたって、費用対効果の高い手法だけでなく、共同出資の形態などが求められています。
また、現代の消費者は、費やした時間に対する満足度を非常に重視します。ひとつの広告・一度の試用体験に「わかりやすさ」や「複数の価値」がいっそう強く求められており、ときには異なる事業者同士の連携による「組み合わせの提案」が必要です。
共創マーケティングが産むシナジー効果とは
共創マーケティングがもたらすのは、単なる足し算ではありません。異なる企業が連携することで、単独では決して得られないシナジー効果(相乗効果)が生まれます。
■コストシナジー
複数の企業で協賛ブースを共同出展することで、ブースの設営費や装飾費、運営スタッフの人件費、配布するノベルティの制作費などを分担できます。これにより、一社あたりの出展コストを大幅に削減でき、単独では予算的に難しかった大規模な企画も視野に入ります。
■ブランドシナジー
互いのブランドが持つイメージを補完し合い、新たなブランド価値を創出する効果です。たとえば「先進的なテクノロジー企業」と「トレンドに敏感なアパレルブランド」がコラボレーションすることで、互いに「クールで最先端」という新しいブランド連想を築くことができます。
■体験価値シナジー
各社の製品やサービスを組み合わせることで、来場者に対して、より完成度の高いソリューションや付加価値の高い体験を提供できますす。具体例として、夏フェス会場で「夏フェス快適ブース」をテーマに、冷たいドリンクを提供する飲料メーカーと、メイク直しコーナーを設ける化粧品メーカーが組むといった展開が考えられます。
■リスク分散効果
イベント協賛には、天候不順による来場者数の減少や、集客が想定より伸び悩むといった、主催者側ではコントロールしきれないリスクが常につきまといます。共創マーケティングでは、こうしたイベント特有のリスクや投資コストをパートナー企業と分担できるため、一社あたりの負担を軽減し、より挑戦的な施策にも取り組みやすくなります。
ライブ協賛による共創マーケティングの方法

ライブ協賛による共創マーケティングの成功の鍵は、自社分析・パートナー選定から適切な手順を踏むことです。具体的には、以下のような順で協賛の実現を目指すと良いでしょう。
自社分析・目標設定・提供価値の見極めを徹底する
共創マーケティングの第一歩は、遠くのパートナーを探す前に、まず自社の事業および商品・サービスを深く分析することから始まります。
- 顧客のペルソナ(誰にアプローチするのか)
- ライブ協賛の最終目標は何か(何をもって成功とするのか)
を明確にすることで、初めて適切なパートナーシップの形が見えてきます。
最初に分析したいのは「誰に」アプローチしたいのかです。顧客の分析は、年齢や性別、居住地といったデモグラフィック情報だけでなく、その人の価値観、ライフスタイル、音楽の好み、そして「フェスでどんなことに困っているか」といったサイコグラフィック情報まで踏み込んで分析し、具体的な人物像(ペルソナ)を設計しましょう。
次に検討するのは、何をもって「成功」とするのかです。最終的なゴールであるKGI(重要目標達成指標)と、そこに至るプロセスを計測するKPI(重要業績評価指標)を、具体的な数値で設定しましょう。例として「ブース来場者数3,000人」「新規アプリダウンロード数500件」などの設定が考えられます。
ここまでの分析が終わったら、自社がパートナーに提供できる価値(アセット)は何かを洗い出します。これは単に製品やサービスに限りません。たとえば、保有する顧客データ、独自の技術力、SNSのフォロワー数、そしてブランドが持つ世界観やストーリーといった無形の資産も、パートナーにとっては非常に魅力的なアセットになり得ます。
共創マーケティングのパートナーを選定する
自社の立ち位置が明確になったら、次はいよいよ理想のパートナーを探すフェーズです。しかし、やみくもに探しても最適な相手は見つかりません。適切なパートナー候補を絞り込むにあたっては、以下の3つのフレームワークがあります。
■フレームワーク①:ターゲット顧客のジャーニーマップ
協賛するライブ当日の来場者の行動を時系列で追い、各瞬間にどのようなニーズが生まれるか想像する手法です。自宅出発から終演後に至るまでの一連の行動(ジャーニー)から、自社が提供できる価値と、それを補完・強化してくれる異業種パートナーは誰かをマッピングしてみましょう。
■フレームワーク②:ブランド連想ネットワーク分析
自社ブランドから連想されるキーワードを起点に、思考を広げていく手法です。まず、自社ブランドを表すキーワードを複数書き出し、そのキーワードから連想される関連の異業種カテゴリーを見極めます。
■フレームワーク③:課題解決マトリクス
ライブ会場の来場者が抱える不満・課題を起点にパートナーを探す方法です。縦軸に「来場者の具体的な課題(暑い、疲れた、暇、スマートフォンの充電がない、荷物が邪魔など)」を、横軸に「その課題を解決できる可能性のある業界」を配置したマトリクスを作成し、自社が位置するマスと隣接する会社を探ってみましょう。
共同企画を立案する
理想のパートナーが見つかったら、次は両社の強みを最大限に活かした共同企画を具体的に立案します。ここでは、そのヒントとなる4つのアイデア例を紹介します。
■アイデア例①:テーマ型共同ブース
複数の企業が同じコンセプトの下に集い、一つの空間を共同で創り上げるアイデアです。複数の化粧品メーカーが協力して無料のメイク直しブースを設置したり、食品メーカーとリラクゼージョン器具のメーカーが共同で休憩ブースを設置したりする例が挙げられます。
■アイデア例②:共同サンプリング・キャンペーン
関連性の高い製品を一つのセットにして配布するキャンペーンです。例として「最強夏フェスセット」と銘打ち、制汗シート、日焼け止め、栄養補助食品などを、両社のロゴが入ったオリジナルデザインのバッグに詰めてサンプリングするケースが挙げられます。
■アイデア例③:体験のクロスセル」
ブース間の回遊を促し、相互送客を実現するための仕掛けです。具体的には、飲料ブースで商品を購入したレシートをアパレルブースに提示すると割引が受けられるといったインセンティブを設計します。来場者に「お得感」を提供し、パートナー企業間で送客しあうWin-Winの関係を築くことができます。
■アイデア例④:共同デジタルコンテンツ
SNSでの拡散を狙ったデジタル施策も有効です。例として、共通デザインのフレームを使ったフォトブースを共同で設置し、撮影した写真に両社のブランドロゴとキャンペーンハッシュタグが自動で挿入されるしくみの導入が考えられます。
協賛するライブを選定する
魅力的な共同企画が固まったら、次はその企画を最も効果的に届けられる「場所」、つまり協賛するライブやフェスを選定するステップです。どれだけ素晴らしい企画でも、発表の場を間違えればその効果は半減してしまいます。選定にあたっては、以下の3つの視点を総合的に検討することが重要です。
■ターゲット層とアーティストのファン層のマッチング
最も重要なのは、自分たちが届けたいターゲット顧客層と、そのライブに出演するアーティストのファン層の一致です。年齢層、性別、ライフスタイルなどを考慮し、親和性が高いかどうかを慎重に見極めましょう。
■会場規模とブース出展のレギュレーション
会場の規模や特性、そしてブース出展に関するルール(レギュレーション)も確認しましょう。想定しているブースのサイズや装飾、実施したい企画内容が、その会場のルール内で実現可能かどうかを事前に確認する必要があります。
■イベント自体のブランドイメージとの親和性
大前提として、イベント自体が持つブランドイメージと、自社およびパートナー企業のブランドイメージが合っているか考慮しなければなりません。たとえば、環境問題をテーマにしたイベントであれば、サステナビリティを重視する企業同士のコラボレーションは説得力を持ちます。
ライブ協賛のための交渉・契約を行う
ライブに共同で協賛する企画を成功させるにあたっては、実行前の段階でパートナー企業との間で詳細な取り決めを行い、書面で合意しておくことが不可欠です。期待や思い込みで進めてしまうと、後々のトラブルの原因になりかねません。
とくに下記の点については、それぞれあいまいさを残さず、明確にルール化しておく必要があります。
- 企画内で各社の役割はどう分担するのか
- ライブ協賛後、成果をどのようにして共有するのか
- 個人情報保護法などのコンプライアンス面は各社万全か
- クレームなどのトラブルが発生した場合、どのような手順で・誰が対応するのか
【事例に学ぶ】ライブ協賛のシナジーを最大化した成功パターン3選
ライブ協賛による共創マーケティングの真の力を理解するには、実際の成功事例に触れるのが一番の近道です。ここでは、異なるアプローチでシナジーを最大化し、大きな成果を上げた3つの象徴的なライブイベントをピックアップします。
【Rakuten GirlsAward】プラットフォーム戦略が生む「経済圏シナジー」
日本最大級のファッション&音楽イベントである「Rakuten GirlsAward」は、プラットフォーマーである楽天が中心となり、多種多様な企業を巻き込むことで巨大なシナジーを生み出している代表例です。
このイベントの核心は、楽天IDをあらゆる体験のハブとして機能させている点にあります。来場者はファッション、ビューティー、食品といった多岐にわたる協賛企業のブースを訪れ、サンプリングやコンテンツを楽しみます。その際、SNSへの投稿やアンケートへの回答といったアクションを行うことで、楽天ポイントが付与されるしくみです。
個々のブランドとの接触というミクロな体験は、楽天ポイントという共通のインセンティブを通じて「楽天経済圏」の利便性やお得感に直結します。来場者の満足度を高めると同時に、参加企業から得られる膨大な行動データは楽天に集約され、次のマーケティング施策へと活用される点も要注目です。
【SUMMER SONIC】音楽×テクノロジーが生む「体験価値シナジー」
【SUMMER SONIC】音楽×テクノロジーが生む「体験価値シナジー」
日本を代表する都市型音楽フェスティバル「SUMMER SONIC」は、音楽と最新テクノロジーを融合させ、新たな「体験価値シナジー」を創出している好例です。
このフェスでは、AR・VR技術を持つ企業(例: STYLY)などがパートナーとして参加。来場者が会場内の特定スポットでスマートフォンをかざすと、アーティストの限定コンテンツが出現したり、特別な演出が楽しめたりといった、現実世界とデジタルが融合した新しい音楽体験を提供しています。
この取り組みは、音楽フェスを「新しいテクノロジーのショーケース」として活用する戦略です。テクノロジー企業にとっては、音楽やトレンドに感度の高い若者層へ自社技術を効果的にアピールできる絶好の機会となります。一方、フェス側は「常に進化を続ける先進的な音楽イベント」というブランドイメージを強化でき、まさにWin-Winの関係が成立しています。
※参考:https://www.summersonic.com/
【氣志團万博】アーティストの世界観と一体化する「ブランド共創シナジー」
アーティスト自身が持つ強力な世界観と企業ブランドが深く結びつくことで、唯一無二の「ブランド共創シナジー」を生み出しているのが「氣志團万博」です。
とくにサントリー「オールフリー」とのパートナーシップは象徴的です。彼らは単なるイベントスポンサーという立ち位置に留まりません。「公式飲料」として、氣志團が持つ「ヤンキー&ロックンロール」という独特の世界観を構成する不可欠な一要素となっています。
来場者にとっては、「オールフリーを飲むこと」自体が、氣志團万博という特別な空間を最大限に楽しむための行為の一部として体験されます。アーティスト、企業、そしてファンの三者が一体となるこの関係性は、ブランドへの極めて強い親近感と、忘れられない記憶を来場者の心に深く刻み込むことに成功しています。
※参考:https://www.kishidanbanpaku.com/
まとめ
異業種と連携によるマーケティングは、コストやブランド、体験価値といった面で大きなシナジーが生まれ、単独では成し得ない成果が期待できます。アーティストライブの協賛を他社と共同で行うケースでは「共同出資により大規模な装飾」と「場外まで記憶に残るイメージ戦略」で想定以上の効果が生まれることがあります。
「共創の可能性は分かったが、自社に合うパートナーをどう探せばいいかわからない」「企画や交渉に不安がある」など、具体的なお悩みをお持ちではないでしょうか。
ライエルは、音楽ライブの協賛を希望する企業とアーティストを繋ぐマッチングプラットフォームです。豊富な実績とネットワークを活かし、貴社の課題解決に最適な共創パートナーのご提案から、企画立案、交渉までをワンストップでサポートします。